「土づくりからはじまるすべて」——アグリ・アライアンスが描く、未来を耕す物語
豊かな田畑が広がる東広島市・八本松町。
ここでネギや落花生、アスパラガスなどを育てているのが『アグリ・アライアンス株式会社 脇農園』です。
「野菜作りが仕事ではなく、土づくりが農家の本来の仕事なんです。」
そう語る 脇伸哉さんの言葉には、
農業に対する深い哲学と、食べる人への強い想いが込められていました。
父から受け継いだ、土への情熱
鉄工所から畑へ——“本物の味”を求めて
脇農園の歴史は、伸哉さんの父・伸男さんが60歳で野菜作りを始めたことに遡ります。
もともと米農家だった祖父から引き継いだ田んぼを畑に変え、『脇農園』をスタートしました。
「父は子供の頃に食べたトマトの味が忘れられなかったみたいで。
その頃は化学肥料は使っていなくて、牛糞とか米ぬかとか自然のもので作っていたそうです。
そうして生まれた野菜の味こそが”本物”だったんだろうなって、年を重ねて思い出したんですよね。」

かつて当たり前にあった“本物の味”を、もう一度自分の手で作りたい。
そして、子供や孫に”安心して食べられる野菜”を届けたい
その一心で化学肥料に頼らない土づくりに取り組み始めた伸男さん。
しかし、そのこだわりようは尋常ではありませんでした。
「周りからは『やりすぎだ』って呆れられたみたいです。それだけ土へのこだわりが強かったんですよ。」
脇さんは笑いながらそう振り返ります。
やりすぎといわれるほどの情熱が、今の脇農園の礎となっています。
60センチの土が育む、野菜の生命力
脇農園の最大の特徴は、その“土の質”と”土の深さ”。
土への情熱はどの農園にも負けないものがあります。
まずは”水”を制する
新しい土地と向き合うとき、まず行うのが”暗渠(あんきょ)”と呼ばれる排水設備づくり。
地面から80〜90センチほどの深さに管を埋め、排水枡を設置。
外から水の出入りをコントロールできるようにしています。

「どれだけ雨が降っても、排水枡を開ければ余分な水が流れます。 逆に雨が少ないときは枡を閉めるんです。
そうすれば、気候の変化が激しくても、水のコントロールができるんですよ。」
水は植物の命の源。
水はけが悪い、逆に保水ができない——そんな”水”にまつわる悩みは農家にとって大きな課題です。
まず水を制することで、どんな土地でも理想的な環境を整えることができるのです。
羊羹からカステラへ——”土の質”を変える
「このあたりの土地は、上から15センチくらいが土の状態ですけど、それより下は粘土質なんですよ。」
粘土質の土を、脇農園では”羊羹”に例えています。
羊羹のように密度の高い土では、植物がしっかりと根を張ることができません。
一方で、脇農園が理想とする”カステラ”のようなふかふかの土なら、
野菜たちは元気に根を伸ばしていけるのです。

そんな理想の土を作るために、土を深く耕し、微生物や植物性の肥料をたっぷりとすき込んでいきます。
羊羹のような土地を、カステラのような良い畑にするまでには約3年。
その間にも作物は植えますが、納得のいくものができなければ収穫せず、
そのまま土に還すこともあるのだそうです。
「根っこが元気であれば、それだけ土の中の栄養もしっかり取り入れることができます。
健康な土から育った野菜は免疫力が強いので、途中で少し菌が入っても負けない。
だから、農薬や殺虫剤もほとんど必要なくなるんです。」
さらに、毎年独自に土壌診断を行い、足りない栄養素だけを補うなど、
科学的なアプローチも欠かしていません。
野菜本来の味を引き出す、”より質のよい土”を作るために
そうして作り上げた畑には、毎年大量の植物性堆肥を投入しています。
ナスを育てている畑では、その量なんと90トンにものぼるといいます。

「ナスって化学肥料を使うとえぐみが出て味が落ちるんです。
植物性の堆肥だけで育てると、ナス本来の味が出て、青りんごみたいな香りがするんですよ。
うちのナスが特別なんじゃなくて、ナス本来の味っていうのは、そういうものなんです。」
一般的な農家が雑草を抑えるために使う黒いビニールマルチも使わず、
その代わりに堆肥で畝と溝をすべて覆います。
「堆肥は60〜70度くらいの高温で発酵するので、種が混ざっていても死んじゃうんです。
だから雑草も生えません。
堆肥をかぶせる手間はかかりますけど、 それが美味しい野菜への一歩になるんですよね。
堆肥はそのまま土になるから、畑の土の量を毎年増やすことにもつながります。」
毎年の積み重ねが、他には見られない土の深さに繋がっているのです。
広島に落花生文化を。
広島ではじめた、未踏の挑戦
こうして作り上げた豊かな土で、新たな挑戦が芽を出しました。
それが、落花生です。
脇農園の主力でもある”ネギ”の連作障害対策の一環として植え始め、
その面白さや魅力に可能性を感じたそうです。

国内で消費されている落花生の多くは海外産で、国産は一割未満。
さらに広島で落花生を植えている農家はほとんどおらず、
秋に生の落花生を買ってきて食べるという食文化も根付いてはいませんでした。
「6年前に始めた当初は全く売れなかったですねえ・・・泣く泣く畑の肥料にしたりもしました。
でも自分で食べたら美味しいし、これをいろんな人に知ってもらいたいと思ったんです。
いつか“この時期になったら生の落花生を茹でて食べよう”っていう新たな食文化ができたらいいなって。」
「ブームに乗る」のではなく、「ブームを起こす」
最初の数年はそんな時期が続いていましたが、
それでもイベントでの出店や試食会を重ね、地道に伝え続けました。
すると、「前に買って美味しかったからまた来ました」「あの味が忘れられなくて」と、
少しずつリピーターが増えていったのです。
「ブームに乗るより、ブームを起こす側にいたいんです。
私たちの取り組みをみて他の農家さんが落花生を育て、生産者が増えれば産地ができる。
そうすると、加工品を作りたいという人も増えて、地域に新しい循環が生まれる。
そうやって食文化が根づいていくんだと思っています。」

地元への浸透はもちろん、全国区のテレビにも取り上げられるなど
まさに、新たな”落花生文化”が芽吹いてきています。
「農業って、挑戦できる余地がたくさんある仕事なんですよ。
きついとか儲からないとか言われたりもしますけど…
自分で育てて、いろんな人と関わりながら広めていって、新しい食文化を作ることもできる。
若い世代にもその面白さを知ってほしいし、
農業のイメージを変えていくことも僕らの役割だと思っています。」
土づくりから始まった挑戦が、やがて地域の未来を変えようとしています。
「TUTITONE(土とね、)」に込めた想い
そんな土への想い、野菜への想い、人への想いを形にしたのが、
自社ブランド「TUTITONE(土とね、)」です。
丹精こめて土から育てた野菜たちを余すことなく使用し、
できるだけ自然のものを使ったシンプルな味わいに仕立てています。
「TUTITONE ピーナッツペースト」
自慢の落花生の中でも特に品質のよいA品の粒だけを選りすぐって作ったピーナッツペースト。
材料はシンプルに落花生ときび砂糖、藻塩だけでできています。
口に入れた瞬間、薄皮の香ばしさと落花生の優しい甘みがふわっと広がり、
大地の恵みを感じさせるような奥深い味わいです。

「白葱たれ 白・赤」
イベント出店やテレビ取材を受ける中でご縁がつながった料理家・岸 八千代さん監修の逸品。
ねぎの旨みを凝縮し、焼き野菜や肉料理、パスタにひとさじ加えるだけで、
料理全体がぐっと引き立ちます。
素材選びにも一切の妥協がありません。
”生産者の顔のみえる材料”をモットーに、選りすぐりの材料だけを使用しています。


すべては、土からはじまる
取材の最後に、「消費者に一番伝えたいことは何ですか?」と尋ねると、
脇さんはうーんと考え、こう話してくれました。
「子どもが話すときに『あれとね、これとね』って言うじゃないですか。
僕たちも伝えたいことがたくさんあるんですよ。土とね、野菜とね、人とね、あれもこれも…
そのなかでも一番最初に来るのはやっぱり、”土”なんです。
そんな思いで、新しく立ち上げたブランドの名前も『TUTITONE(土とね、)』にしました。
僕たちが伝えたいことは、そこに詰まっているんじゃないかなと思います。」
土と、野菜と、人と、農業の未来と…
ここには書ききれないほどの想いと情熱が注がれた『アグリ・アライアンス株式会社 脇農園』。
彼らの挑戦は、これからもこの土の上で続いていくのです。


